First-in-Humanの一般的な技術文書に適切な量の詳細を提供するための重要なヒント

February 17, 2023 by Clara Ferloni (5 分で読めます)

カテゴリー | バイオ医薬品


開発の初期段階では、新薬候補の特性はほとんど明らかになっていないかもしれません。また、試験等から得られる情報の増加に伴って、プロセスや処方は頻繁に変更されます。First-in-Human(FIH)試験に向けて準備を進める中、FIH臨床試験開始申請のためのコモン・テクニカル・ドキュメント(CTD)1の各項目にどの程度の情報を記載すべきか迷うことが少なくないでしょう。化学、製造および品質管理(CMC、CTDモジュール3)もその1つです。通常、この開発段階で得られているデータは限られているため、申請資料にはどの程度の詳細が必要とされるのか疑問に思われるかもしれません。FIH臨床試験開始申請資料の構成と内容について、指針となる事項をいくつかご紹介します。

 

 

1.製造プロセスや品質管理、標準品に関する考察ではヒトにおける安全性に焦点を当てる。

CTD様式でのFIH臨床試験開始申請資料では、現時点の製造プロセスを詳細に記述し、特定のアプローチ/プロセス/方法の選択理由や、方法を変更した場合にはその根拠を示さなければなりません。工程パラメータの変更や製造方法の調整が純度、力価など安全性に密接に関連する特性に影響を与える可能性がある場合には、事前に規定した指標に基づいて前臨床で使用した被験物質と治験薬についてプロスペクティブな比較を行うことが必要です。

プロセスについては、この開発段階では、プロセスの性能と期待される原薬・製剤の安全性および品質について規制当局が基本的な評価を行うことができる限り、通常、概要を示すだけで十分でしょう。標準品については改良されていくことが予想され、FIH試験についてはバリデーションに関する情報は必要ではありませんが、申請資料には以下の事項を記載しなければなりません。

  • 適切な品質を備えた無菌製剤を製造できる製造プロセスであることを裏付けるエビデンスを示す。
  • 既知の分子特性を明確にし、安全性や有効性、ヒトへの適合性との関連性を示す。
  • 可能であれば、定量的試験結果を提示する。
  • 分析データおよび出荷判定方法の概要を示す。

このように、CTDでは、プロセスの概要を示すとともに、初期開発における指標としてモニタリング・検討を行うパラメータについて考察しなければなりません。FIH試験の段階では、原薬の製造プロセス・品質管理方法はまだ開発中の段階であるからです。

 

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2.ヒトを対象とした研究への移行の妥当性を示す特性解析や性状の詳細を示す。

この段階では、新薬候補の重要品質特性(CQA)はまだ選択されていないため、申請資料には特性解析などの詳細を示すことが不可欠です。最も懸念されるのは、新薬候補があらゆる点においてヒトを対象とした臨床試験への移行に適しているかどうかということであるため、申請資料には以下の事項を記載しなければなりません。

  • 現時点における知識の限界を示す。特性解析やプロセス開発の進捗によるCQAの特定に伴って、申請資料は改訂・更新することができます。
  • 純度、力価、含量、クリアランスなど品質および安全性に大きな影響を及ぼす薬剤特性について明らかとなっていることをすべて記載する。
  • 製品品質の根拠となる定量的な力価・純度試験結果を示す。

 

ヒント:以下の事項を記載しましょう。

  • 無菌性を保証する各単位操作の概要
  • 安定性、配合適性、新規賦形剤など処方開発に関する概要
  • 無菌性および微粒子の限度値
  • 残留DNA、残留宿主細胞由来タンパク質(HCP)、エンドトキシンの限度値

3.予備的な管理パラメータと安定性評価計画について考察する。

提出した安定性データが、少なくとも計画されている臨床試験期間の妥当性を裏付けていることを、試験結果をもとに示さなければなりません2,3
さらに、安定性の項には以下の事項を記載する必要があります。

  • 加速分解試験および苛酷試験の結果
  • 前臨床またはnon-GMP(製造管理・品質管理基準)バッチから得られた定量的安定性・分解試験結果が得られている場合にはその内容
  • 今後の安定性試験で予定されている測定時点に関する詳細

 

ヒント:細胞株に関する詳細は極めて重要です。
宿主細胞株の起源、遺伝子発現構成体の作製、セルバンク作製に関する詳細な情報を提示しましょう。この段階ではワーキング・セル・バンクは必要ありませんが、計画されている試験を実施できる十分な量がなければなりません。

 

4.CTDの必須要素

開発フェーズ(第I相、第II相、第III相)にかかわらず、臨床試験開始申請を適切に行うには、以下の事項が必須です。

  • 各要素がヒトにおける安全性にどのような影響を与える可能性があるかを明確にする。新薬候補をヒトに使用することの適切性を示すうえで、製造プロセスの変更、重要パラメータの特定・調整、重要特性試験については必ず考察しなければなりません。
  • 先を見越した戦略により申請資料を作成し、次のステップを念頭におきながら各資料を作成する。
  • 製品開発の根拠となる思考プロセスを明確にする。変更の計画と根拠を詳細に示し、規制当局が戦略に納得し、決定内容が適切であることを確信できるようにする。
  • 早期に規制当局担当者と話し合い、新薬候補とその製造方法に関する懸念事項や推奨事項についてフィードバックを頻繁に求める。

以上のとおり、特に臨床試験に入ってからは、開発中に行われたすべての変更について、その経緯を明確にし、妥当性を示せるようにすることが極めて重要です。あらゆる開発段階において、CTDの主な目的は、臨床開発の次のフェーズへの移行または承認取得の準備が整っていることを示す、説得力と一貫性のあるエビデンスを規制当局に提供することです。

CTDのCMCパートには何を、どの程度の深さで記載すべきかについて詳しく解説したチェックリスト(印刷可能)やウェビナーをご用意しました。是非ご活用ください。

View references
1. International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use. M4: The Common Technical Document for the Registration of Pharmaceuticals for Human Use: Quality - M4Q(R1)ICH of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use. September 12, 2002.
3. European Medicines Agency. Guideline on the requirements for quality documentation concerning biological investigational medicinal products in clinical trials. Committee for Medicinal Products for Human Use (CHMP). January 27, 2022. EMA/CHMP/BWP/534898/2008 Rev. 2.
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