電子ラベルを採用する時期が来ていますか?

新しいEU臨床試験規則に基づくラベル表示ソリューションの可能性

March 30, 2022 by Kevin Shea (5 分で読めます)

カテゴリー| 治験関連サービス


新しいEU臨床試験規則(CTR)は、治験管理をシンプル化し、製薬企業が欧州で治験を実施しやすい環境を構築することを目指して制定されました。CTRが法的拘束力を持つようになり、薬事、ラベリング、Qualified Person(QP)要件が統一された今、各治験依頼者はその内容を十分に把握しなければなりません。CTRが製薬業界に与える影響について、規制遵守を確保する方法も含めて解説いたします。規制遵守には、経験豊富な人材と変化への対応力が必要です。そして、治験に関する高い専門知識を備え、世界各地に拠点を有し、実績ある技術、そしてリスク低減戦略を提供できるパートナーとの提携が必要かもしれません。

制定までに活発な議論がなされましたが、CTRでは、治験薬への電子ラベル(eLabel)の使用は認められていません。使用期限は、従来のブックレットラベルにより、治験薬の直接包装および二次包装の双方に印字する必要があります。

CTRのラベリング要件は、「使用期間」の表示、すなわち治験薬(Investigational Medicinal Product:IMP)や治験使用薬(Auxiliary Medicinal Product:AMP)の使用期限に焦点を当てています。使用期限は、各薬剤の直接/一次包装および二次包装に表示しなければなりません1

これらの新しい要件への対応にあたって、製造業者からは複数の領域に関する懸念が指摘されています。

  • 再加工に要するコスト:追加ラベルの作成コストや関連するプロジェクト管理・設備料などが必要となります。これらのコストは複数の一次容器があるキットではさらに大きくなります。
  • 不正開封防止シール:規制を遵守するには、二次包装の不正開封防止シールを剥がすことが必要となることが多いため、不正開封が行われたように見えることが懸念されます。
  • 治験実施医療機関の設備:ラベリング作業は管理されたcGMP環境で実施しなければならないことから、治験実施医療機関によっては印刷や点検、ラベル貼付作業を実施できない可能性があります。
  • 低温保管品の表示:超低温での保管が必要とされる医薬品では、再ラベリングが新たな課題となります。
  • 資源の無駄:一次包装へのラベリングに伴う問題から、破損・廃棄品の発生リスクが高まります。

EU臨床試験規則536/2014のラベリングに関する規定

変更点

臨床試験で使用される治験薬や治験使用薬の使用期限(使用期間)は、例外なく直接包装に表示しなければならないことになりました2 。これは、EU臨床試験規則536/2014の付属書VIの要求事項です。この結果、有効期間の延長が非常に難しくなり、電子システムの導入が不可能となっています。

  • 国や地域別に供給品への表示を行う。
  • 使用期限についてはジャスト・イン・タイム方式を用いる。
  • 特別な包装デザインを用い、外箱から一次ラベルを挿入する。
  • 一次包装のみの包装とする。
  • 治験実施医療機関やデポにおいてオーバーラベリング・再ラベリングを実施する。
  • リスクのある安定性データ/包装を改善する。
  • 電子ラベルソリューションを導入する。

上記リストの最後の項目、電子ラベルには様々な種類があり、クラウドにより速やかに更新可能なものもあります。バーコード、クイックレスポンス(QR)コード、無線自動識別(RFID)タグ、包装への貼付・変更が可能な電子ペーパーなどがその例です(図1)。

Figure 1. Potential solutions

 

電子ラベルの基本機能とそのメリットは以下のとおりです。

 

世界各国のバイオ医薬品R&D企業と提携し、さまざまな領域の改善に取り組む組織TransCelerateの調査では、電子ラベルは患者さん、治験実施医療機関、規制当局、治験依頼者に次のようなメリットをもたらすことが明らかとなっています3

  • 患者さん
    • 臨床開発の効率化により、新薬をより速やかに患者さんに届けることが可能となる。
    • 患者さんの安全性が向上する。
    • 治験用ラベルの利便性が高まり、投与方法の解説動画や患者さんとのコミュニケーションを補足する情報提供、使いやすさの改善などにより治療遵守の向上を期待できる。
  • 治験実施医療機関
    • リアルタイムの情報を迅速に入手できる。
    • ラベリング作業を効率化できる。
    • 患者さん自身が積極的に治療に関与する患者エンゲージメントの土台を構築できる。
  • 規制当局
    • 使用期限延長の再ラベリング作業中の逸脱リスクを低減できる(無菌性、不正開封防止シール、製品の混同、規定環境外の保管時間に関連する逸脱など)。
    • 最新情報を患者さんに提供できる。
    • 幅広いデジタル・イノベーション戦略につながる。
  • 治験依頼者
    • ラベル作成の作業効率が向上する。
    • 追加プーリングが可能となり、無駄を削減できる。
    • より速やかに治験の変化に対応できる。
    • アドヒアランス向上プログラムや患者分析データ、患者教育など、付加価値の高い選択肢を増やすことができる。

これまでに行われた電子ラベルの普及活動の例としては、大手製薬企業7社が2020年に着手した取り組みがあります。Alliance to Modernize Prescribing Information(添付文書改革連合)という名称で活動するこのグループは、紙ベースのラベリングは時代遅れであり、患者さんへの安全性情報提供のための技術フローに適合していないと指摘しています。また、平均年5回必要となる承認済みラベルの改訂は、時間のかかる作業であり、タイムラグが生じる可能性があることから、患者さんの安全性に対するリスクとなることを指摘しているグループもあります5 。いずれも妥当な指摘であり、臨床試験で使用する治験薬についても電子ラベルを導入すべきときが来ているのかもしれません。これを実現する有望なアプローチとして、法令で要求されているブックレットラベルと平行して、薬剤が使用されるすべての国の言語での患者向け情報の提供など小規模での電子ソリューションを導入する方法があります。患者さんの安全性の確保あるいは向上を実現できることが確認されれば、規制当局の信頼を得るために必要なproof of concept(POC)取得につながる可能性があります。

ただし、新しい選択肢を検討する際には、患者さんの安全性確保が常に最優先事項であることを忘れてはなりません。

External partners can help fulfill sponsor needs for labeling compliance support, whether for individual elements to supplement a big pharma company’s own capacity or for a full range of end-to-end packaging and clinical trial services for an emerging biotech. Sponsors looking to partner on labeling advances should evaluate several qualities in potential partners:

  • Exceptional people—These people should have deep labeling experience, ensuring successful delivery of labeling options to meet regulatory requirements for expiry dates.
  • The ability to adapt—With a foundation in traditional approaches, an external partner should be able to pivot rapidly to adopt and integrate new approaches if required.
  • Expertise in clinical trials—An experienced partner will bring close collaborative relationships with regulatory bodies to ensure sponsor compliance.
  • A broad network—This should include a global footprint, bringing international contacts and expertise, and the ability to coordinate and centralize the many touchpoints involved in labeling.
  • Proven technology—The external partner should bring approaches that have been vetted at global sites and depots, and validated for patient access.
  • Risk mitigation and best-in-class quality control—This would address any concerns about access to information for patients, protecting electronic labeling elements from damage throughout the supply chain, and minimizing environmental waste.

新しいラベリング要件の遵守というハードルを乗り越えられれば、EU加盟国間・加盟国内の連携、情報共有、意思決定の強化など、新しいCTRが意図するメリットを享受することができるでしょう。

View references
1. Berlanga H, Shea K, Zweig L (2021) EU Clinical Trial Regulation 2022 – Impact on regulatory, labeling & QP. Thermo Fisher Scientific.
2. Lorck CA (2021) Annex VI to Clinical Trial Regulation 536/2014: risk assessment-based concept of an interim* solution on expiry date labelling of the immediate packaging of Investigational Medicinal Products (IMPs). European Federation of Pharmaceutical Industries and Associations.
3. TransCelerate Biopharma Inc. eLabels (website), n.d.
4. Wang B (2020) Pharma companies launch initiative to push for e-labeling. InsideHealthPolicy
5. https://www.pharmexec.com/view/e-labeling-change-underway