APIの開発作業を簡素化する

March 31, 2021 by Audrey Kelleman (7 分で読めます)

カテゴリー|低分子


新薬開発方法の主流は変わりつつあります。従来、製薬企業、特に大手製薬企業は原薬を自社開発していました。この開発モデルでは、原薬の創製後、開発を進め、製品上市を目指します。通常、このようなモデルでは、自己資金での自社開発を多数の人材から構成されるチーム作業で進め、分子の創製から商用生産までに必要な設備を整備します。

しかし、過去数年間で、小規模/バーチャル企業のイノベーターが新しい原薬を創製し、第II相試験まで進め、他社への売却を目指すという傾向が強まりました。通常、これらイノベーターは、ベンチャーキャピタルから出資を受け、複数の役割を担うスタッフが業務を進めます。このようにイノベーターは極めて無駄のない経営モデルであるため、化学や処方、分析に必要なGMP(製造管理・品質管理基準)に準拠した設備をほとんど、あるいは全く備えていないのが普通です。また、小規模開発企業は、創製した革新的な原薬の開発を進めるため、CMCコンサルタントや外注パートナーのサービスを利用するかもしれません。

しかし今や、このようなイノベーターは、創製した貴重な原薬を開発して売却するというモデルにこだわる必要はないことに気が付きつつあります。すなわち、新薬候補を手放さず、医薬品受託製造開発機関(CDMO)を利用して創製から商用生産まで進めるのです。外部委託は必要に迫られた選択です。小規模イノベーターは必要最小限の人員からなるチームであり、原薬の開発から上市までの道のりを円滑に進めるための能力や専門知識を備えていないからです。さらに、原薬は競争の激しい市場であり、上市を目指すレースは熾烈を極めます。

提携しているCDMOが1社であっても、複数社であっても、原薬の臨床開発をどのように進めるかを判断することは極めて重要です。

臨床開発:最終目標を念頭において開発に着手する。

結局のところ、原薬イノベーターにとっての初期開発の目標は、

「臨床試験で成功する原薬を開発すること」です。

このためには、第I相試験の目標・目的、達成すべきマイルストーンを明確にしなければなりません。これらを明確にし、提携先候補のCDMOと話し合うことにより、あるべき臨床開発の姿を十分に把握していないCDMOを避けることが可能となります。最終目標を説明することにより、活発な対話が生まれ、CDMOはさまざまな質問をして、臨床開発の目標をきちんと理解しようとするでしょう。CDMOは例えば次のような質問をしなければなりません。

  • 私たちCDMOがソリューションを提案する前にお客様の臨床開発の目標について知っておくべき最も重要なことは何でしょうか?
  • First-in-Human(FIH)試験の結果を取得したい時期はいつですか?
  • 最初の被験者への最初の投与(FSFD)はいつですか?
  • 米国新薬臨床試験開始届/欧州臨床試験開始申請(IND/CTA)の提出予定日はいつですか?
  • 治験実施計画書/シノプシスはどのような内容ですか?
  • 目指す最終製剤はどのようなものですか?
  • 原薬をそのまま投与できないのはなぜですか?
  • 前臨床試験ではどのような結果が得られると予想されますか?またはどのような結果が得られましたか?
  • 原薬はどのように開発しましたか?

提携先候補のCDMOがこのような質問をすることにより、開発の目標・目的に合わせてどのようなサービスを提供できるのかが明らかとなり始めるとともに、より意味のある対話を行うことができるでしょう。さらに重要なことは、CDMOは臨床試験計画における臨床上の目的を把握でき、それに合った化学、製造および品質管理(CMC)計画を構築することができます。

原薬開発戦略の選択肢

社内の体制と原薬について第I相試験を開始できる準備が整った後、どのような戦略で開発を進めるかにはさまざまな選択肢があります。通常、予算や必要とされる臨床入りまでのスピード、検討すべき規制対応などの要素に基づき、適切な戦略が選択されます。高いレベルでは、大部分の原薬イノベーターにとって、第I相試験開始前の選択肢は3つあります。

オプション1:cGMP合成で期待されるすべての情報を実験ノートに記録する。これにより、cGMPに準拠し、適切に管理された環境下で原薬の分離が行われたという保証を与えるバッチ記録が得られます。

長所短所
  • コストをある程度抑えることが可能。                                                                   
  •  将来的に規制当局により問題視されるリスクがある。

 

オプション2:non-GMP安全性試験およびFIH/第I相試験に必要な、適切な量の原薬を合成する。

長所 短所
  • 1バッチを合成するだけのコストで済む。また、不純物プロファイルを十分に確認することが可能。
  • 将来製造するバッチは異なる不純物プロファイルを示すリスクがある。

 

オプション3:non-GMP製造は低価格のサプライヤーに委託し、cGMP製造はcGMP施設で実施する。

長所 短所
  • Non-GMP製造に要するコストを抑えることができる。                                                                                                                                           
  • 委託先が使用した原材料が、規制当局と合意した登録出発物質(RSM)とは異なるリスクがある。

 

どの選択肢を選ぶにせよ、何のために初期開発の戦略を構築しているのか、すなわち臨床試験の成功を促す原薬を開発するという目標を忘れてはなりません。臨床試験のための原薬開発への初期投資は、将来的に以下のようなさまざまなメリットをもたらします。

  • よりスマートなRSM選択が可能となる。
  • より良い合成プロセスを構築でき、危険性の高い試薬の使用を避けることができる。
  • 遺伝毒性を有する中間体を回避できる。
  • より良い合成プロセスを構築でき、問題となる不純物の発生を防ぐことができる。
  • スケーラビリティの高い化学・収束的合成が可能となる。
  • 早期に固体形態を選択しやすくなる。
  • 最終分離溶媒の判断に役立つ。

上記のうち、見過ごされがちな事項の1つが固体形態の選択です。第II相では剤形を決定する必要があることから、固体形態の選択は重要です。第I相で使用した固体形態を評価していないと、最終剤形でどのような挙動を示すかがわからないかもしれません。

例えば、第II相は錠剤で進めることにしたとしましょう。第II相で原薬をスケールアップしたとき、期待される圧縮成形性が得られなかったり、流動性の問題が生じたりするかもしれません。そのような場合、別の合成プロセスを評価したり、物理的処理工程の追加を検討したりすることが必要となる可能性があります。そこで例えば粒子径を変更した場合、第I相データの妥当性に影響が生じ、その結果、開発の遅れやコスト増、無駄につながりかねません。

多くの新規化学物質は本質的に低溶解性ですが、下表に示すようにさまざまな技術により溶解性を改善することができます。処方を設定する最適なタイミングは第I相であるのはこのためです。

 

臨床試験の成功を目指す過程で、第II相前に適切な原薬を開発しておくことの重要性は計り知れませんが、小さなバーチャルチームは、初期原薬開発で生じる可能性がある問題の解決に必要な専門知識/資源を備えていないことが多いでしょう。プロセスの最適化、複雑な化学、分析法、そして最も効率性の高い原薬合成ルートの探索など複雑な初期開発を円滑に進めつつ、速やかな臨床入りを実現することは容易ではありません。

ですが、原薬チームと製剤チームが開発プログラム開始時から十分に連携していれば、処方も決定しやすくなります。原薬の開発・スケールアップではわからないことや不確実なことが数多くありますが、化学者と処方開発担当者、分析担当者が共同作業する体制を既に構築しているCDMOと提携すれば、臨床入りまでの原薬開発をはるかに効率的に進めることができるでしょう。

処方開発担当者が原薬のプロセス開発に関与することにより、原薬の初期特性評価から処方の実施可能性確認まであらゆる段階に参加することができ、最終原薬に必要とされる化学的・物理的特性、すなわち、目標品質プロファイルを把握しやすくなります。このようなチーム作業と分子科学や原薬開発に関する的確なノウハウを確保することにより、臨床入り、そして最終的には上市をより速やかに実現できる可能性が高まります。

 

原薬の外部委託における課題

これまでお話ししたとおり、小規模の原薬イノベーターは一部の業務をCDMOに委託せざるを得ません。従来、イノベーターは、CDMOへの委託にあたっては複数CDMOを用いるマルチベンダー戦略を取り、1社にすべてを任せることのリスクを避けていました。一見、理にかなったアプローチです。1社のCDMOと提携して成果を挙げられなかった経験がある場合には特にそうでしょう。

ですが、CDMOへの委託において複数ベンダーを利用することにはそれなりのリスクがあり、単独ベンダーへの委託に伴うリスクを上回る可能性もあります。最近数年間において、マルチベンダー戦略は作業の遅れやコミュニケーション不足、引き継ぎミスが起きやすいことが明らかとなっています。イノベーターは次の革新的新薬候補を創製するという課題に既に取り組んでおり、また、無駄のない人員構成による事業モデルであることから、プロジェクトマネージャーの役割を担う人材を備えていない場合がほとんどでしょう。

マルチベンダー戦略を選択した原薬イノベーターは、複数ベンダー間のコミュニケーションと共同作業を調整しなくてはなりませんが、ベンダーの多くは競合関係にあり、当然ながら適切に協力・連携できないことが少なくありません。また、CDMO間の円滑なコミュニケーションを保つだけでなく、CDMO間のプロジェクト移管の調整も行う必要があります。さらに、マルチベンダー戦略では、サプライチェーン全体にわたるグローバルな実績を活用する機会を失ってしまうことが少なくありません。

Quick to Clinic™開発プロセスのシンプル化

サーモフィッシャーサイエンティフィックの Quick to Clinic™ は、原薬開発に伴うさまざまなリスクを軽減しつつ、第I相試験入りというマイルストーンの早期達成を支援するサービスです。Quick to Clinic™サービスでは、原薬、製剤、治験サービスの人材が緊密に連携するチーム作業により、臨床試験前により的確な原薬の特性評価・開発を行うことが可能です。