溶解性・バイオアベイラビリティ改善のための予測モデリング

March 19, 2024 by Sanjay Konagurthu (15 minute read)

Category | Small molecule


処方開発において、難溶性・低バイオアベイラビリティという課題の克服は、有望な化合物を有効な治療薬に変えるうえで不可欠のステップです。開発中の新規化学物質(NCE)の70%〜90%は難溶性であり、バイオアベリラビリティの問題を引き起こす可能性があると推定されています。難溶性の薬物は十分に吸収されず、治療効果を発揮できる血中濃度が得られないことから、溶解性は薬物のバイオアベイラビリティに極めて重要な役割を果たしています。

このような課題を克服し、患者さんのより良い人生に貢献できる薬剤を開発するため、コンピュータシミュレーションによる予測モデリング(in silicoモデリングとも呼ばれます)などの高度な技術・手法を用いて医薬品開発プロセスを合理化し、初期処方開発を円滑に進めようとする動きが強まっています。溶解性・バイオアベイラビリティ改善における予測モデリングの力をご紹介する前に、溶解性とバイオアベイラビリティそれぞれの役割を詳しく見てみましょう。

溶解性とは?

溶解性とは、薬物がどの程度水やその他の生理液などの特定の溶媒に溶け、均質な溶液となるかをいいます。製薬業界において溶解性は極めて重要な要素であり、人体内での薬物の吸収、分布、バイオアベイラビリティに影響を及ぼします。

バイオアベイラビリティとは?

バイオアベリラビリティとは、投与後に体の循環系に未変化体として吸収され、治療効果を発揮する薬物の割合をいいます。バイオアベイラビリティには、薬物の溶解性や消化器系における安定性、生体関門通過性が直接的な影響を及ぼします。

難溶性・低バイオアベイラビリティの課題とは

薬物の難溶性・低バイオアベイラビリティは、治験薬の安全性と有効性に影響することから、処方開発における極めて重要な課題です。これらの課題には複数の要因が関与しており、各要因に対処するにはそれぞれ複数の事項を考慮しなければなりません。難溶性・低バイオアベイラビリティに伴ってよくみられる課題の例を以下に示します。

  • 処方の複雑化: 難溶性・低バイオアベイラビリティに対処するには、特別な賦形剤やナノテクノロジー操作、高度な薬物送達システムを用いた極めて複雑な処方が必要となることが少なくありません。その結果、製造工程も複雑化します。
  • コスト増大・開発期間延長: 溶解性・バイオアベイラビリティの課題を克服するには、広範な研究開発や試験が必要となり、コスト増大につながることがあります。専門技術や追加試験の必要性も開発期間を延長させる要因となります。
  • 患者さんの利便性およびコンプライアンス: 処方が最適化されていないと、投与頻度が高くなったり、利便性の低い投与方法が必要となったりするため、治療方法に対する患者コンプライアンスに悪影響が生じることがあります。また、高用量になるほど副作用が多くなる可能性もあります。 effects.
  • 規制対応のハードル: ·        難溶性・低バイオアベイラビリティの場合、生物学的同等性、安定性、安全性、品質管理に関する基準への適合を確保するために厳格な評価や資料作成、追加試験が必要となり、規制当局の承認取得に影響を及ぼすことがあります。.
Predictive modeling can enhance solubility and bioavailability

処方戦略が溶解性・バイオアベイラビリティに与える影響については、後期開発で大きな損失をもたらす可能性があるミスを避けるため、処方開発の初期段階から考慮しなければなりません。これまでは、溶解性・バイオアベイラビリティを高めるための技術と処方の選択にあたっては、試行錯誤のアプローチが用いられてきました。しかし、原薬とポリマーの相互作用を模倣するコンピュータシミュレーションによる予測モデリング(in silicoモデリング)では、経験的な試行錯誤のアプローチに代わって、より合理的、効率的な戦略が可能となります。

予測モデリングによる溶解性・バイオアベイラビリティの改善

製薬研究における予測モデリングでは、数学的アルゴリズムとコンピュータシミュレーションを用いてさまざまなシナリオの結果を予測します。この高度な手法では、人工知能(AI)や機械学習などの革新的技術を用いて複雑な生物学的、化学的、物理的プロセスをモデル化することにより、薬物の挙動や生体システムとの相互作用についてデータに基づく知見を獲得でき、十分な情報に基づく処方戦略の構築が可能となります。溶解性・バイオアベイラビリティの改善において、予測モデリングには以下をはじめとするさまざまなメリットがあります。

  • 効率的な処方最適化 予測モデリングでは、賦形剤の選択や処理条件などのさまざまな処方パラメータを検討し、最適化することが可能です。各種パラメータの影響をシミュレートすることにより、溶解性・バイオアベイラビリティを改善できる可能性が高い処方を見極めることができ、試行錯誤の実験を減らすことができます。
  • 潜在的問題の早期把握: 予測モデリングにより、溶解性・バイオアベイラビリティに関連して生じる可能性がある問題を早期に把握することができます。賦形剤の選択や粒子径などのさまざまな要因が及ぼす影響を評価することにより、最も有望な処方選択肢を見極めたうえで実験によるバリデーションを行うことができるため、後期開発での問題発生を回避することが可能です。.
  • コストと時間の削減: 予測モデリングを通して戦略的に処方を設計・最適化することにより、原材料や設備、時間面での資源消費を減らすことができます。成功確率の高い処方に注力し、開発プロジェクト全体を加速させることが可能です。
  • 機序や相互作用に関する知見獲得: 予測モデリングにより、溶解性・バイオアベイラビリティに関わる基礎的な分子相互作用や機序に関する知見を獲得することができます。これらの要因を理解することは、十分な情報に基づいて処方の構成要素を決定したり、分子構造の変化がバイオアベイラビリティに与える影響を予測したりすることに役立ちます

医薬品の研究開発における今後の予測モデリング

薬物の全体的な有効性は、どの程度溶解して体に吸収されるかに左右されることから、積極的に溶解性・バイオアベイラビリティの問題に対処することは、今日の医薬品開発における最優先事項の1つとなっています。特にコンピュータ手法やAI、機械学習、データ分析法が進歩する中、医薬品開発のこの分野において予測モデリングはますます重要となるでしょう。

医薬品開発において、溶解性・バイオアベイラビリティの複雑な課題を解決するには、革新的ソリューションが必要です。例えば、サーモフィッシャーサイエンティフィックのQuadrant 2TM予測プラットフォームは、さまざまなコンピュータ手法を用いて各化合物の分子構造と化学的特性を分析することにより、最適なバイオアバイラビリティ・溶解性改善技術と賦形剤の組み合わせを正確に特定します。

膨大なデータセットを分析し、薬物と生体システムの複雑な相互作用を予測する能力により、コンピュータシミュレーションによる予測モデリングを行うことができるQuadrant 2TMなどの革新的ツールは、初期開発プロジェクトにおける意思決定の合理化を実現します。その結果、試行錯誤の実験に要するコストを削減できるだけでなく、新薬候補をより速やかに特定することが可能です。

分子生物学や個別化薬理学領域の理解が深まるにつれて、予測モデルはさらに高度なものとなり、全体的な薬物挙動をより正確にシミュレートできるようになると予想されます。このような進化は、医薬品開発の新たな時代を築く土台となるものであり、溶解性やバイオアベイラビリティなどの根本的な処方課題を超えて、より有効かつ個別化された医薬品の開発に焦点が当てられるようになるでしょう。

コンピュータシミュレーションによる予測モデリングの力について解説したホワイトペーパー「In silicoモデリングによる医薬品開発の推進」を是非ダウンロードしてご覧ください。