分散型臨床試験が新型コロナウイルス感染症の時代にどのように患者中心性を高めるか

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COVID-19によりバイオ医薬品の業務の仕方が変化し続ける中、患者さんのより良い人生に貢献する治療薬、患者さんの命を救う治療薬を提供するという事業の基本目的をしっかり見据えることが大切です。製薬業界と患者さんとのつながり方は変わりつつあり、臨床試験などの多くの活動はもはや従来の対面型では実施できなくなりました。企業規模を問わずすべてのバイオ医薬品企業において、臨床試験の実施方法を見直すときに考慮すべきトレンドが1つあるとすれば、それは患者さん中心主義(patient centricity)への移行です。

患者さん中心主義は、臨床試験だけではなく、ライフサイエンス業界全体を根本的に変える、考え方の大きな転換ですが、患者さん中心主義の意味は立場によって異なりうるため、何が患者さん中心主義ではないのかを明確にすることが重要となることがあります。

患者さん中心主義(patient centricity)ではないもの

デロイト社の報告「ライフサイエンスにおいて患者さん中心主義(patient centricity)を向上させる努力」では、「患者さん中心主義に標準的な一定の定義はない」とされています。そして製薬企業では、患者さん中心主義にpatient engagement(患者エンゲージメント)、patient-focused(患者さんへのフォーカス)などの別の呼び方が用いられることもありますが、何が患者さん中心主義ではないのかという点では大部分の業界リーダーの見解は一致しているようです。業界リーダーが考える、患者さん中心主義ではないものとは以下のとおりです。

  • 「広報活動や社外に焦点を当てた取り組み」

    バイオ医薬品企業が他の団体と積極的な提携・パートナーシップを構築することは重要ですが、それだけでは必ずしも患者さん中心主義の企業にはなれません。患者さん中心主義の企業になるとは、業務のあらゆるレベルで社内の企業文化を変革することであり、企業の「プロセス、事業の方法、評価基準を進化させ、変化を促進」しなければなりません。

  • 「単に治験の被験者としての患者さんとのエンゲージメントを促進すること。」

    患者さん、すなわち「被験者」の臨床試験に対する意見は極めて重要ですが、それに耳を傾けることだけが患者さん中心主義の取り組みであってはなりません。確かに、被験者と治験依頼者が良い関係を築くことは、患者さんが参加しやすい臨床試験の実施や組入れ率の向上、より速やかな上市実現に役立ちますが、必ずしも患者さん中心の臨床試験には結び付きません。デロイト社報告の患者エンゲージメントリーダーによると、「臨床試験における患者さんとのエンゲージメントは、治験依頼者が重要と考えるものを検討し、治験依頼者側にとって望ましい形で治験を実施するのであれば、患者さん中心主義とは言えません。患者さん中心主義とは、患者さんと面談して、チェックリストにチェックマークを付けたり、聞きたいことだけに耳を傾けたり、自身の先入観を確認したりすることではありません。」

  • 「画一的な方法」

    COVID-19のような混乱を引き起こす事態から私たちが学ぶべき重要なことがあるとすれば、それはゼロに戻ってやり直さねばならないときがあるということでしょう。この「ゼロ」とは、患者さんが臨床試験で経験するすべての事象(patient experience)を最優先に考えることです。したがって、患者さんとのつながり方のすべての側面を再検討する必要があります。バイオ医薬品企業各社は、アジリティを高め、治験の実施の仕方をさまざまな面から再評価することが重要です。

患者さん中心主義とは、考え方と行動を変容させることです。患者さんが臨床試験で経験するすべての事象の改善を軸としてあらゆる活動が行われるよう、プロセスやシステムを変えなければなりません。

Jason Mieding, Sr. Director, Total Transportation Management &Digital Supply Chain

 

どのように臨床試験を実施し、患者さん中心主義を維持するか?

他の多くの業界と同様に、COVID-19によりさまざまな変化が生じました。その多くはおそらくパンデミック後にも元に戻ることはないでしょう。COVID-19により、従来の業務の仕方の多くは見直す価値があること、そして今後見直されていくことが明らかとなりました。今回のパンデミックが私たちに突きつけた現実により、バイオ医薬品/ライフサイエンス企業各社は、臨床試験の実施方法や患者さん中心主義の維持の仕方を再評価せざるを得なくなりました。従来の臨床試験実施方法を変えることは容易ではないかもしれませんが、すべての当事者にメリットをもたらす可能性があるからです。

分散型臨床試験によるより良い臨床研究の実現

臨床試験の患者さん中心主義を向上させる取り組みの最先端にあるのは分散型臨床試験です。分散型臨床試験は、全部ではないものの大部分の治験手順を患者さんが自宅で行うことができる方法であり、今やバイオ医薬品業界で最も関心を集めている話題の1つであることは不思議ではありません。分散型臨床試験は新しいコンセプトではありませんが、期待を上回る成果を挙げていることから、業界内で新たな注目を浴びています。

COVID-19による混乱から医薬品開発プログラムの継続が困難となったとき、バイオ医薬品企業の4社中約3社は従来の治験方法を変更し、何らかの形の分散型臨床試験方式を採用しました。業界がほっとしたことに、分散型臨床試験方式により、治験薬を患者さんの自宅に直接配送し、在宅ケアも提供した結果、臨床試験の中断を回避することができたのです。

さらに、分散型臨床試験により、治験依頼者・治験実施医療機関は患者さんを組み入れやすくなったこと、患者さんは治験が完了するまで治験を継続しやすくなったことが明らかとなりました。これは製薬企業にとってはうれしいニュースでした。治験の85%では予定登録期間内に十分な数の患者さんを組み入れ、維持することができず、また、必要な数の患者さんを組み入れられないために終了となる治験は登録された治験の19%にのぼるからです。

患者さんが治験に参加しやすくなること、参加後も治験を継続しやすくなること、そして治験に要する時間が減ることが良い影響をもたらすことは当然と言えるでしょう。臨床試験に参加した患者さんの3人に1人は治験完了前に脱落し、その理由として時間的負担や治験実施医療機関への通院の負担をあげています。

分散型臨床試験では、患者さんが自宅から治験に参加でき、治験実施医療機関にほとんどあるいはまったく来院する必要がないことから、治験参加に伴う患者さんと介護者の負担が軽減され、様々なメリットをもたらします。

  • 組入れ率・治験継続率の向上
  • 治験期間の短縮
  • 新薬の速やかな上市
  • 最も重要なメリット:より良い、患者さん中心の治験プロセスの実現

全世界が直面した課題により、患者さんとバイオ医薬品企業にとって新たな機会が生まれました

COVID-19に支配された1年間に導入された分散型臨床試験を、バイオ医薬品企業はCOVID-19がもたらした恩恵と考えています。製薬業界で足掛かりを得た分散型臨床試験は、今後も引き続き実施されるでしょう。業界アンケートの回答者の90%以上は、分散型臨床試験は長期的に普及が進むと予想しています。

各バイオ医薬品企業はそれぞれの分散型臨床試験を設定することが可能ですが、治験の規模によっては治験開始までに最大で1年半もの時間がかかることがあります。業界をリードするCDMOは、あらゆる規模のバイオ医薬品企業に包括的なPharmacy-to-Patient(薬局から患者さんへの直送)およびDepot-to-Patient(デポから患者さんへの直送)ソリューションを提供することにより、治験薬の集中管理・サプライチェーン計画のシンプル化を実現し、治験薬の交付という複雑な作業の負担軽減に貢献することが可能です。このような頑健かつ柔軟なソリューションにより、スケジュール通りの治験薬の患者さんへの配送を確保できるだけでなく、無駄を削減し、治験実施医療機関で必要とされる保管スペースを最小限に抑えることが可能です。

分散型臨床試験に関する深い専門知識と経験を備えたCDMOは、治験立ち上げ期間をわずか数ヵ月に短縮することができ、提供可能な技術力・サービスについて具体的な根拠を示すことができるでしょう。このようなCDMOをパートナーとすることにより、治験薬の力を高めることに注力し、患者さんのより良い人生に貢献する治療薬、患者さんの命を救う治療薬の開発を推進し、より速やかな上市を実現することが可能となります。

サーモフィッシャーサイエンティフィックは、患者さん中心の分散型臨床試験を応援しています。

分散型臨床試験のメリットについて、また、治験依頼者とのパートナーシップによる分散型臨床試験の推進について解説いたします。