コールドチェーン・ロジスティクスの重要な役割:研究室から患者まで、医薬品の品質を守る

January 15, 2025 (12 minute read)

カテゴリー | バイオ医薬品


COVID-19パンデミックが始まる前、温度に敏感なバイオ医薬品などの領域においてcold chain logistics(低温ロジスティクス)が果たす重要な役割はあまり認識されていませんでした。この状況が変わったのは、mRNA-based vaccines(mRNAワクチン)に必要とされる複雑なロジスティクスについてメディアが報道するようになったときです。世界各地の患者さんに提供するまでの輸送においてmRNAワクチンの安全性・有効性を維持するには、超低温サプライチェーンが必要だったのです。報道により、製品の完全性を維持するうえで温度制御がいかに重要であるかが知られるようになりました。

温度に敏感な治療薬の需要増加に伴い、製品の安全性と有効性を確保する頑健な低温ロジスティクスが不可欠なものとなりました。短時間の温度逸脱でも、医薬品の品質が損なわれ、コストのかかる回収、資源の無駄、患者さんの安全性へのリスクにつながる可能性があります。World Health Organization (WHO)[世界保健機関(WHO)]によると、毎年50%近くものワクチンが不適切な温度管理により無駄となっています。また、医薬品のコールドチェーン(低温物流)の問題による全世界の損失はestimated at $35 billion annually(年間350億ドル)と推定されています。

 

Cold chain logistics process for preserving biopharmaceutical drug integrity

温度感受性の科学的背景

モノクローナル抗体(mAbs)などのLarge molecule drugs(バイオ医薬品)は、温度の変動に非常に敏感です。一般的に室温で安定なsmall molecule drugs(低分子医薬品)とは異なり、バイオ医薬品は変性や凝集などの構造的・化学的変化を起こしやすく、有効性の低下につながることがあります。このため、製造、保管、輸送の全過程にわたる一貫した温度制御が欠かせません。

バイオ医薬品では、わずかな温度変動でも安定性に悪影響が生じることがあります。温度が高すぎると標的結合能が失われる可能性があり、一方、凍結すると氷晶が形成され、医薬品の分子構造が損なわれる可能性があります。頑健な温度制御システムは、このような問題を防ぎ、製品の安全性・有効性を維持することに役立ちます。何らかの時点で温度逸脱が発生すると、有効性が低下し、患者さんに重大なリスクをもたらしかねません。

 

さまざまな低温・超低温サプライチェーン

低温・超低温サプライチェーンは通常、冷蔵、冷凍、超低温の3種類に分類されます。以下のとおり、それぞれ異なる温度範囲で医薬品を保護することを目的としています。

  • 冷蔵:ワクチンやモノクローナル抗体などの多くの医薬品は、有効性を維持するため、2°C〜8°C(36°F〜46°F)で保管しなければなりません。この温度範囲から逸脱すると、問題が生じる可能性があります。
  • 冷凍:一部の医薬品は、零下(32°F未満)で保管する必要があり、通常-20°C〜-80°C(-4°F〜-112°F)での保管が求められます。わずかな温度変化でも医薬品の完全性を損なう可能性があるため、慎重かつ一貫したモニタリングが欠かせません。
  •  超低温:cell and gene therapies(細胞治療・遺伝子治療製品)など、通常-150°C(-238°F)未満の超低温で保管する必要がある医薬品もあります。安定性を保つため、専用容器を用い、液体窒素中で保管されます。

低温・超低温サプライチェーンロジスティクスの主な課題

低温・超低温サプライチェーンの管理は難しく、医薬品開発企業が開発における他の優先事項に取り組まねばならない場合には特に困難となるでしょう。製造、保管、流通過程において適切な温度制御を確保することはもちろんですが、その他にも以下のような課題があります。

  • 規制遵守:国ごとに異なる規則に対応することは容易ではありません。規制は頻繁に変更になるため、グローバル市場で製品の安全性・有効性を確保するには、各国の規制を常に的確に把握している必要があります。
  • ロジスティクス上の課題:通常、コールドチェーンでは、航空、海上、陸上輸送の組み合わせが必要であり、その過程ではさまざまな課題に対応しなければなりません。何らかの時点で遅れや変化が生じると製品品質が損なわれる可能性があるため、リアルタイムでのモニタリングと緊密な連携が重要です。
  • コストとインフラ:低温・超低温保管では多くの場合、高価な専用設備が必要です。遠隔地域や開発途上地域では特に、このようなインフラを維持することは難しく、既に資源が不足している地域にさらに負担がかかることがあります。

低温ロジスティクスにおけるイノベーションとソリューション

近年では、低温・超低温サプライチェーンロジスティクスの進歩により、温度に敏感なバイオ医薬品に求められる温度を維持することは容易になりました。in-transit temperature monitoring and reporting(輸送中の温度モニタリング・レポート)システムなどの技術を利用することにより、一元化されたプラットフォームで重要な配送品を継続的に追跡することが可能となり、遅延や逸脱をリアルタイムで把握し、データに基づく意思決定を行うことができます。また、スマートセンサーにより、セキュリティーをさらに強化でき、温度変動の可能性を早期に検出し、速やかに措置を講じることにより製品への悪影響を防ぐことが可能です。

包装・ラベリングのベストプラクティスを実践することもコールドチェーン管理の強化に役立ちます。例えば、バイオ医薬品では、超低温で最初から確実な包装・ラベリングを行い、規定環境からの逸脱時間(TOE)ゼロを確保することが不可欠です。さらに、このような環境下でラベルの確実な貼付が維持されなければなりませんが、適切なラベリングが規制遵守に極めて重要であるバイオ医薬品業界では、今もなお課題となっています。低温ロジスティクスの管理には、単なる冷蔵庫・冷凍庫での保管だけでなく、医療資材を守る総合的なサービス・ソリューションが必要なのです。

低温・超低温サプライチェーン管理におけるパートナーシップ

バイオテクノロジー・医薬品開発企業の信用は、温度に敏感な医薬品の安全性・有効性を保ちつつ患者さんのもとに届けられるかどうかにかかっていますが、この課題に社内資源のみで対応する必要はありません。経験豊かな第三者パートナーが提供する専門性の高いサポートを是非ご利用ください。このような戦略的パートナーシップを駆使することにより、リスクを低減させ、治療を必要としている患者さんに安全性・有効性を維持しつつ医薬品を確実に届けることが可能です。

サーモフィッシャーサイエンティフィックが誇る総合的なCDMO and CRO solutions to support cold chain management(CDMO・CROソリューションによるコールドチェーン管理)では、温度に敏感な治療薬の最適な取扱いを確保いたします。物流業者、技術エキスパート、薬事スペシャリストとの連携により、seamless global network of facilities(シームレスな施設グローバルネットワーク)を構築しており、あらゆるお客様のニーズに的確に対応することが可能です。検体の長期保管のためのbiorepository services(バイオレポジトリサービス)も整備しており、実験室から患者さんのもとまで、医薬品の完全性維持に貢献いたします。

治験成功をサポートするサーモフィッシャーサイエンティフィックの総合的なコールドチェーンサービスを紹介した解説画像(download our infographic.)をご用意しました。是非ダウンロードしてご覧ください。

To explore how Thermo Fisher Scientific’s comprehensive cold chain services help support the success of clinical trials, download our infographic.