希少疾病用医薬品の開発を妨げる考慮事項と障害

April 06, 2022 by Christy Eatmon (6 分で読めます)

カテゴリー | 低分子


米国食品医薬品局(FDA)によると、「2020年は、Office of Orphan Products Developmentに提出されたオーファンドラッグ指定申請・希少小児疾病指定申請数が過去最高となった年でした。」米国では、患者数が20万人未満の疾患が希少疾病と定義されており、希少疾病に苦しんでいる米国の患者さんは2500万人以上にのぼります。希少疾病は7000以上存在すると推定されていますが、現時点で承認された治療薬がある疾患はその5%にすぎません。重大なアンメット・メディカル・ニーズが存在していることは明らかであり、新規分子や既存薬の適応拡大による治療薬の開発が求められています。希少疾病用医薬品市場は2024年までに2620億ドルに達すると推定されています。治験費用に対する税額控除や市場独占権などの優遇措置も整備されていることから、企業にとってオーファンドラッグ開発は採算の取れるビジネスとなっています。

行政による優遇措置が整備され、規制当局はオーファンドラッグ申請審査プロセスを改善し、市場の成長を促すための取り組みを行っていますが、必ずしも迅速な承認が確保されているわけではありません。医薬品開発に要する平均費用は最低3億ドルであることを考えると、希少疾病を対象とした新薬開発に取り組む企業は、開発期間を短縮しつつ承認取得の可能性を高めることができる戦略を構築する必要があります。

 

迅速な承認取得を阻む問題とその回避方法

開発プログラムの一部の遅延はプログラム全体に大きな影響を及ぼし、財政面で治験の開始や継続を妨げることがあります。特にベンダーと提携して開発を進めている場合には、開発チームが何もできないでいる間も同じ諸経費がかかります。

したがって、遅延は何としてでも回避しなければなりません。遅延を引き起こす問題には通常2つのタイプがあります。

問題1:臨床上のニーズを満たす処方設計

有効性と安定性に優れた処方を設計することは、オーファンドラッグの初期開発における重要な課題の1つです。

  • 新たに創製された原薬であるか?それとも既存薬の適応拡大であるか?
  • 経口固形製剤を目指している場合は、投与回数と1回の投与量はどのくらいであるか?
  • 背景の異なる患者集団別の処方が必要か?それともすべての患者さんに投与できる「フリーサイズ」型の処方が適切か?

これらは原薬・製剤双方の開発戦略に影響を及ぼす事項です。既存薬の適応拡大の場合には、既存処方をもとに速やかに開発を進めることができますが、新規成分の場合にはゼロから化学・処方開発を行わねばなりません。初期の治験薬必要量は少なく、第I相では開発相に適したシンプルな処方で良いかもしれませんが、データの蓄積に伴って処方の複雑さも増してきます。原薬・製剤開発にはスケールアップ検討が必要であり、最終的にはプロセスバリデーションを実施して、強固な化学・製造・品質管理(CMC)データパッケージを作成し、規制当局の審査を受ける準備をしなければなりません。

問題2:オーファンドラッグは開発スピードが速いため、十分なCMC活動を行う時間がない。

オーファンドラッグは、アンメット・メディカル・ニーズを満たす新薬を速やかに提供する必要があることや迅速審査プロセスの利用などの理由から、開発期間が短いのが普通です。企業はできる限り速やかに開発を進めることを望みますが、その結果開発活動が前倒しになり、本来であれば臨床試験の結果に基づいて進めるべきCMC活動に十分な時間を取れないリスクが生じます。

例えば、瓶に半自動充填した経口原薬は、一部の第I相試験には適していますが、このようなプロセスはスケールアップし、商用生産の管理を行うことができません。逆に一般的な容器施栓系を用いたシンプルな無菌充填バイアルは、第I相から第III相まで同じ治験スケールの自動充填ラインで製造し、プロセスバリデーションプロトコールにより検証可能である場合もあります。

また、医薬品は疾患を治癒/治療するだけでなく、CMCの観点から最高水準の品質であることが求められます。第I相用製剤から上市に向けたスケールアップでは、原薬・製剤双方の製造方法の変更はほぼ避けられません。

また、医師主導治験での開発を小規模・大規模企業が引き継いだ場合には特に、治験依頼者も変更となります。このような変更や移管が発生した場合には、開発活動の経緯を記録し、明確にしておくことが重要です。

上記の2つの問題のいずれかあるいは両方が発生した場合、完全なCMCパッケージの作成が難しくなり、承認の遅れに至る可能性があります。規制当局が期待しているのは完全なCMCパッケージであることを忘れてはなりません。処方から製薬上のニーズまで、原薬・製剤開発プログラムにギャップがあってはならないのです。

新薬承認申請(NDA)/生物製剤承認申請(BLA)の問題回避のためのチェックリスト

連続的かつ適応的な開発戦略を構築し、上記の2つの起こりがちな問題を回避するために、以下のチェックリストをご活用ください。開発戦略が単純すぎるように思われるかもしれませんが、スタート地点として役立つでしょう。

  • カスタマイズされた、リスクに基づくCMC計画を立てる。目標製品品質プロファイルが明確に設定されているとともに、柔軟に変更可能な計画とする。
  • FDAに科学戦略を提示し、CMC開発計画について合意を得る。
  • 社内の治験チーム・CMCチームの連携を保ち、必要な処方変更を速やかに実施し、記録できるようにする。
  • 非臨床用製剤から各治験薬(CTM)まで原薬・製剤データをレビューし、傾向を把握する。
  • 次世代処方・手法を開発し、できる限り早期に上市準備を整える。
  • そして、臨床試験の進捗状況に応じてCMC作業を前倒しで進める。

 

オーファンドラッグ開発:外部委託すべきか、自社開発すべきか

最後に検討すべき事項は、オーファンドラック開発プログラムの一部または全部を外部委託すべきかどうかです。選択した剤形にかかわらず、シンプルな治験薬製造プロセスを開発することは容易ではありません。大手企業も小規模企業も、原薬、製剤、包装、物流の各領域を専門とするCDMOにオーファンドラッグ開発を委託することが多く、マルチベンダーモデルが従来の手法でした。

マルチベンダーモデルによる外部委託は理論上はうまくいくのですが、実際には連携を取りにくく、課題の多い戦略です。Why? なぜなら、複数のCDMOの調整業務を開発者側がすべて担わなければならないからです。当然ながら、異なるCDMOにおけるプロセスには整合性がありません。例えば、製剤を担当するCDMOは原薬CDMOから原薬を受領するまで業務を開始しない可能性があり、発送/受領時期の問題やその変更はすべて開発者(スポンサー)の責任となります。また、CDMO/ベンダーが異なる地域に拠点を構えている場合には、言語の違いや時差も開発者(スポンサー)の負担となります。地理的な課題や地域差だけでなく、規制当局のガイドラインや輸入に関する規則、税制の違いにも開発者が対応しなければなりません。単独のCDMOが柔軟性の高いスケジュールと緊密な連携を確保したチーム体制のもと、これらの課題すべてに対応し、拠点間の活動を調整すれば、開発をより円滑に進めることが可能となります。

さまざまな開発業務をバランスを取りながら進めることのできるCDMOを見つけるには

数多くのCDMOが活動していますが、開発、治験薬製造、商用生産のすべてにバランスを取りながら対応できる単独(1ヵ所)のCDMOに委託するのが賢明でしょう。良いCDMOは、十分な技術力とノウハウを備え、オーファンドラッグ開発のあらゆる側面の重要性をしっかりと把握することが可能です。オーファンドラッグという複雑な薬剤をすべてカバーするアプローチはありません。高い専門知識・技術力を備えたCDMOとの提携により、円滑な臨床試験だけでなく、商業的成功も確保することが可能です。良いCDMOの条件を以下にまとめました。

  • 製剤開発・治験薬製造コスト、諸経費を削減できること
  • 質の高い申請資料を作成できること
  • 治験から承認までを迅速に進めることができること
  • そして最も重要な条件は、患者さんのニーズを満たす製剤を開発できること